大会レポート「世界選手権ダイジェスト」

文・写真:朝岡秀樹 写真:牧野壮樹

1.日本代表23名、かく闘えり

女子

日本代表は、誰もリーグを勝ち抜けず。特に、全日本選手権ディフェンディングチャンピオンの庄子が1勝も出来なかったことはショッキング。しかしながら、大会直前になって、無差別1階級のみでの実施が決定したことは、体格の小さな前原・庄子にとってはあまりに酷だったように思われる。ロシア、東欧勢との体格差は歴然。次回世界選手権の際には、少なくとも開催3ヵ月以上前にはカテゴリー分けについての発表があり、選手がそれに応じたフィジカルトレーニングを積めるよう、環境が用意されることを願いたい。

前原映子(大道塾北本)

予選リーグ(初戦)。vsプイ(オーストラリア)。体力指数で20以上上回る相手に延長判定勝利。

予選リーグ。vsレゼプキナ(ロシア)。柔道において国際大会に出場するほどの実績を持ちながら、打撃も強烈なレゼプキナには、細かなテクニックを活かすだけの隙がなかった。まるで、ブルドーザーに押し切られるような試合展開で、判定負け。

吉倉千秋(大道塾横浜北)

予選リーグ(初戦)。vsラビブ(フランス)。マウントパンチから腕十字で圧勝。

予選リーグ。vsビコヴァ(ロシア)。国内屈指のパワーを誇る吉倉だが、ビコヴァにはやはり、圧倒される。左右のフックをガンガン打ち込まれ、最後は腕十字で仕留められた。

庄子亜久理(大道塾多賀城)

予選リーグ。vsイワノワ(ウクライナ)。前回大会準優勝者の前に、持ち前の精巧な組手を展開できず。

-230

谷井→末廣の連戦と、目黒のトリッキーな戦法がロシアを止め、中村が頂点に立った。世界選手権が、国別の団体戦であることを感じさせた階級だった。

中村知大(大道塾総本部)

2回戦(初戦)。vsアルテガ(メキシコ)。背負投を決める。

3回戦。vsカンピロス(スペイン)。腰絞め(クロックチョーク)で絞め落とした。

準決勝。vs目黒。バックマウントからの裸絞めで逆転一本勝ち。

決勝。vsエドガー。エドガーが末廣戦で左上腕の筋断裂を負ったため、棄権。

目黒雄太(大道塾長岡)

2回戦(初戦)。vsゲオルギエフ(ブルガリア)。

3回戦。vsイシプラトフ(ロシア)。ミドルをキャッチさせてからのバランスキープの良さで、相手を疲弊させる。

末廣智明(大道塾吉祥寺)

3回戦。vsヤーマノフ(カザフスタン)。組んでのヒザで延長を制す。

準決勝。vsエドガー。上段蹴りで追い込むも、延長でパンチにより効果を奪われ惜敗。

谷井翔太(大道塾総本部)

2回戦。vsヤズデリ(イラン)。マウントからの絞めで一本勝ち。

3回戦。vsエドガー(ロシア)。一進一退の打ち合いで、副審の旗は2-2に割れた。延長になるかと思われたが、主審はエドガー勝利を宣告した。

-240

候補選手が充実しており、日本代表を決めるのに、コーチ陣が頭を悩ませた階級。代表となった選手は、全員が全日本選手権優勝者である。まさか、そんなクラスで、ロシア勢のみならず、チリ、モンゴルといった新興国選手に日本人が敗れるとは……。

堀越亮祐(大道塾中部)

2回戦(初戦)。vsセリコフ(カザフスタン)。本戦は旗が割れる互角の展開。淡々とした組手を貫き、延長で5-0を得た。

3回戦。vsグリシン(ロシア)。堀越特有の相手の攻撃を受け流す組手も、ロシア勢特有のパンチの圧力を制するには至らず、本戦4-0敗退。

内田淳一(大道塾総本部)

2回戦(初戦)。vsヤバロフ(アゼルバイジャン)。投げからの疑似打撃とマウントパンチで効果2つを奪い、腕十字でフィニッシュ。

3回戦。vsダンディンスレン(モンゴル)。パンチで効果を奪われ、裸絞めを極めかけられ、本戦5-0で完敗。

田中俊輔(大道塾札幌南)

2回戦。vsウル(キルギスタン)。相手もキックボクシングスタイルで、噛み合った試合展開に。相手の身体指数超過に対する罰則により、延長戦終了の時点で勝利を得る。

我妻猛(大道塾角田)

2回戦(初戦)。vsモラエス(ブラジル)。三角絞めで一本勝ち。

3回戦。vsマナヴァシアン(ロシア)。ドンピシャのタイミングでカウンターの膝蹴りを決めるも、相手の前進は止まらず。

-250

前回世界選手権の際は、まだ中学生で、エキシビションとして試合場に上がっていた清水が、今大会、19歳にして、ロシア人選手を封じ込め、決勝進出。日本の明るい未来を感じさせた。 

清水亮汰(大道塾総本部)

1回戦。vsエスポジト(イタリア)。ハイキック、ニーインベリーからの疑似打撃でそれぞれ効果を奪った後に、腕十字で一本。サイクルヒット的な完勝。

2回戦。vsツェラプシキン(ベラルーシ)。豪快に投げては、下がっておびきよせてのカウンターのハイキックでダウンを奪い、場内をどよめかせた。

3回戦。vsペルミン(ロシア)。この試合でも、下がりながらのハイキックで効果を奪う。延長戦にもつれ込むも、ロシア人選手のラッシュ系スタイルを技術で封じ込めることが出来ることを証明した。

準決勝。vsストレチェンコ(ウクライナ)。3大会連続出場、前回大会では笹沢一有を、今大会では勝直光を下して3位に入賞している強豪を豪快に投げ捨て、疑似打撃で効果を奪う。

決勝。vsケレサエフ(ロシア)。下ってカウンター回し蹴りを狙う戦略に徹するが、紙一重で仕留めるには至らず。ポイントを奪えなかった場合、ただ消極的なだけの闘いぶりにもみえてしまうのが、この戦法の弱点。延長では遂にパンチを被弾し、効果を奪われてしまった。

コノネンコ アレクセイ(大道塾東北)

2回戦(初戦)。vsナバタリエフ(アゼルバイジャン)。力強くパンチを打ったかと思えば、相手の前に出る力を利用して捨身技で投げる、コノネンコならでは剛柔一体の巧みな試合運びで本戦5-0完勝。

3回戦。vsアマンゾル(カザフスタン)。本戦4-1で制す。

準決勝。vsケレサエフ(ロシア)。5年前の前回大会でも両者は準決勝で対戦し、その際は、コノネンコがマウントパンチで効果を奪い、勝利していた。今回は、逆にケレサエフがマウントパンチで効果を奪い、リベンジ達成。第1回世界選手権から出場、3・11で住処を失いながらも、悲願の世界制覇に向け、闘い続けてきた〝青い目のサムライ″の闘いも、これが最後なのだろうか……。

深澤元貴(大道塾総本部)

2回戦(初戦)。vsハルステッド(アメリカ)。投げからの疑似打撃で効果を奪う。

3回戦。vsケレサエフ(ロシア)。右パンチ、バックマウントからの疑似打撃で、それぞれ効果を奪われる。

勝直光(大道塾関西)

2回戦(初戦)。vsオルティス(メキシコ)。打撃も寝技も巧みな者同士の接戦を左の蹴りで制す。

3回戦。vsストレチェンコ(ウクライナ)。変形裸絞め(いわゆるギロチンチョーク)に捕えられ、右ハイで効果を奪われ、本戦決着。

-260

優勝者・準優勝者とも、5年前とまったく同じロシア選手に。日本人選手全員が、この2人のロシア人に敗戦。しかし、それぞれ、持ち味を発揮し、世界のツートップに肉薄していたのも確かなことだ。平塚はトータルファイターで、加藤はㇺエタイ的、山田はパンチャーで、渡部は絞め技での一発逆転を狙うタイプ……と、選手の個性が光るのが、空道ニッポンのよきところでもあろう。

加藤和徳(大道塾吉祥寺)

2回戦(初戦)。vsパコモフ(アラブ首長国連邦)。上段前蹴りで相手をダウンさせ、有効をゲット。

3回戦。vsボーン(オーストラリア)。パンチの猛攻からヒザで一本勝ち。

準決勝。vsカリトノフ(ロシア)。本戦は押し気味に試合を進めるが、延長、パンチで効果を奪われる。写真は、拳の甲側をブチ当てる、ロシア勢特有のフック。

平塚洋二郎(大道塾仙南)

2回戦(初戦)。vsエブジェニ(モルドバ)。ニーインベリーからの襟絞めで一本勝ち。

3回戦。vs金(韓国)。好戦的な相手との打ち合いを制す。

準決勝。vsカリエフ(ロシア)。後ろ回し蹴りで一本負け。

渡部秀一(大道塾岸和田)

2回戦(初戦)。vsメノン(ルクセンブルク)。立ち技の段階で奥襟を持っておいて、相手に倒されつつ、足を頭部に掛けて絞め、一本勝ち。得意のパターンが爆発!

準決勝。vsカリエフ(ロシア)。本戦では旗が割れる善戦をみせ、 延長へ。再三、立って組んだ状態で襟絞めへのセットを完了し、引き込もうとするが、カリエフはこの罠を察知してか、逃れてしまう。逆にカリエフに絞めの形に入られてしまい、打撃での展開と併せて、延長判定では完敗。それにしても、過去、カリエフと闘った日本人選手のなかでは、もっとも健闘したといえよう。一方でカリエフの穴のなさにも、あらためて脱帽。

山田壮(大道塾関西)

2回戦(初戦)。vsロス(アメリカ)。日米のガッツファイター対決。本戦では双方譲らず互角。延長で日本男児の根性が勝り、首相撲からのヒザで効果2つを連取。

3回戦。vsカリトノフ(ロシア)。ロシアチームのキャプテン的存在、カリトノフとの真っ向勝負。パンチで効果2つ、有効1つを奪われ、完敗。

-270

日本のエース的存在、国内敵なしの加藤が初戦、しかもロシア勢でもない選手に敗れる大波乱。新鋭・辻野が健闘するも……。

辻野浩平(大道塾岸和田)

3回戦。vsクルメット(カザフスタン)。延長で、パンチによる効果1を奪う。

準決勝。vsパノフ(ロシア)。前回大会優勝のパノフにマウントパンチを浴びる。ここから腕十字を極められ、一本負け。

加藤久輝(大道塾安城)

2回戦。vsカロブリス(リトアニア)。本戦、左ストレートが空を切り、マウントを奪われる場面もあった加藤。旗は2(加藤)-1(カロブリス)と割れて、延長へ。延長では、加藤がマウントパンチで、カロブリスがパンチ連打でそれぞれ効果を奪い合い、旗が2-2で割れ、主審がカロブリス勝利を宣告。5連覇達成の日本王者が19歳の緑帯に敗れるという大波乱となった。

270+

野村幸汰がロシア王者を下す。IJF(国際柔道連盟)は、世界ランキング入りしている柔道選手に対し、他競技出場を禁じる通達を発した。野村の今後にも影響を及ぼすか?

野村幸汰(大道塾札幌西)

予選リーグ戦(初戦)。vsサリミアン(イラン)。試合開始早々、相手を失神させた襟絞めは強烈なインパクトを残した。

予選リーグ戦。vsぺセリウナス(リトアニア)。右ローで相手をフラつかせ、効果を奪う。

予選リーグ決勝。vsニコライ(ロシア)。ロシア王者のパンチやミドルキックを耐え抜き、投げてからの疑似打撃で効果ポイントを奪い、逆転勝利。

決勝。vsエブジェニ(ロシア)。ストレートを被弾しダウン(技有り)。続けて、パンチ連打を浴び一本負け。

キーナン マイク(大道塾成田)

予選リーグ戦(初戦)。vsフォンサ(イタリア)。一本勝ち。

予選リーグ戦。vsミルザバラエフ(エストニア)。パンチで効果を奪われ、本戦敗戦。同時に決勝進出の可能性を断たれた。

2.各階級決勝(日本人が進出しなかったクラス)リポート

日本人が決勝進出しなかった4クラスのうち、巴戦にウクライナのダリナ・イワノワが残った女子クラス以外の3階級は、優勝者・準優勝者ともロシア人である。ロシア人同士の決勝は、淡泊な試合に映る。それはなにも「自分の国の選手でないから」だけではないだろう。彼らの闘いぶりには、奇をてらうところがなく、実直に前に出て、打ち合いを挑む場面が大半を占めるからだ。では、個性がないかといえば、そんなことはない。アダム・カリエフに後ろ回し蹴りがあるように、それぞれが独自の得意分野をもっている。ただ、日本人選手が「何かを得意とするぶん、何かに欠けている」のに対し、ロシア人選手は「すべてが強いうえで、何かが特に特に強い」かんじか。カリエフにしても、後ろ回しばかり連発する選手だったら対策も立てやすいが、パンチで打ち合い、タックルから関節技を狙い、相手が忘れた頃に後ろ蹴りと後ろ回しの波状攻撃を仕掛けてくるのだ。4年後、彼らに勝つには「全局面で穴のない技術を身につけたうえで、さらに独自の武器」を身につけるしかあるまい。

女子

3つのリーグを勝ち抜いた者による巴戦。2勝のレゼプキナが優勝、1勝のビコヴァが準優勝となった。

ダリナ・イワノワvsイリナ・ビコヴァは、ビコヴァがパンチラッシュで効果を奪い、隙を与えず。

アリナ・レゼプキナvsダリナ・イワノワは、レゼプキナが伸びのあるワンツーで追い込み、前蹴りで効果を奪い、延長5-0。

アリナ・レゼプキナvsイリナ・ビコヴァは、レゼプキナがパンチで効果を奪い、ビコヴァが右脚のダメージにより試合続行不可能に。

-240

ゲガム・マナヴァシアンが腕ひしぎ十字固めでアンドレイ・グリシンに一本勝ち。マナヴァシアンは21歳、グリシンは19歳である。4年後は、さらに強くなっているだろう。

-260

アダム・カリエフが再延長5-0でアレクセイ・カリトノフを振り切る。今大会、唯一、再延長にもつれ込んだ試合。5年前の世界選手権決勝でも、3年前のワールドカップでも、その後のロシア国内の大会でも決勝で闘っている二人だけに、互いに手の内は知り尽くしているのだ。

-270

前回大会王者、ユリ・パノフがニーインベリーからの疑似打撃で、コンスタンティン・カラウニクがパンチで効果を一つずつ得るシーソーゲームの末、カラウニクが延長5-0優勢勝ちで初優勝。26歳のカラウニクだが、空道をはじめたのは7歳。ロシア勢は、その大半が幼少期からこの競技に親しんでいる。

3.表彰式・その他

表彰式

【女子】優勝 アリナ・レゼプキナ(ロシア)準優勝 イリナ・ビコヴァ(ロシア)

【-230】優勝 中村知大(大道塾総本部)準優勝 エドガー・コリアン(ロシア)3位 目黒雄太(大道塾長岡)4位 末廣智明(大道塾吉祥寺)

【-240】優勝 ゲガム・マナヴァシアン(ロシア)準優勝 アンドレイ・グリシン(ロシア)3位  ニコラス・ヌニェ(チリ)4位  バトムー・ダンディンスレン(モンゴル)

【-250】優勝 ルスラン・ケレサエフ(ロシア)準優勝 清水亮汰(大道塾総本部)3位 アレクサンダー・ストレチェンコ(ウクライナ)4位 アレクセイ・コノネンコ(大道塾東北本部)

【-260】優勝 アダム・カリエフ(ロシア)準優勝 アレクセイ・カリトノフ(ロシア)3位 加藤和徳(大道塾吉祥寺)4位 平塚洋二郎(大道塾仙南)

【-270】優勝 コンスタンティン・カラウニク(ロシア)準優勝 ユリ・パノフ(ロシア)3位 シャークハン・イスマイロフ(アゼルバイジャン)4位 辻野浩平(大道塾岸和田)

【270+】優勝 シャロマエエフ・エヴジィニ(ロシア)準優勝 野村幸汰(大道塾札幌西) 画像なし

最優秀勝利者賞は、270+優勝のシャロマエエフ・エヴジィニ。北斗旗を掲げる。

女子入賞者。足を怪我しているビコヴァを気遣い、東孝・大会審判長が肩を支えると、ビコヴァは突然額にキス。武道的作法を守らないことで問題視されることもあったビコヴァだが、態度が悪いというよりは、喜怒哀楽が激しく、それを素直に表現する純粋さをもっているのだと解釈したい。

その他

併催された第1回世界空道ジュニア選手権では、低年齢のクラスでは日本勢が勝つも、年齢が上のカテゴリーになるにつれ、その勝率は下がっていった。とくに、一般部の大会でも、すでに地区大会では優勝している、日本の将来のエース候補生、岩崎大河(185センチ、96キロ、17歳)が、U19クラスで、トベラ(スペイン)に敗れたのは、想定外だった。

大会前日の国際連盟会議。むろん、空道に、政治や宗教の対立が持ち込まれることはない。競技を愛する心はひとつ。ロシア代表とウクライナ代表が席を並べて、熱心に論議を交わしていた。

大会翌日のフェアウェルパーティー。各国の代表が挨拶。写真は、今回初参加のキューバ代表。政治的問題で、キューバから来日するには大変な困難が伴う。それをクリアしたことは大きな成果だ。今大会、第1回大会の頃と比べると〝参加することに意義がある″的な選手がほとんど見受けられず、ウクライナ、エストニアといった東欧圏はもとより、モンゴル、チリといった各地域の選手が日本王者たちを破るに至った。もはや、前(ロシア)だけを追っていればいい時代ではなくなったのだ。後ろからは、各国の足音が日本に迫っている。これは、喜ぶべきことでもあるだろう。

最後に一つ、願うなら……。今大会を最後に引退することを決めていた選手たち、1年後でも、2年後でもいい。休んだのちには、ぜひ、いま一度、試合コートに戻り、今後を担う世代が乗り越えるべき壁となって欲しい。若い彼らには試練が必要。立ちはだかり、悔しがらせ、この競技で勝つことが容易ではないことを教えて欲しい。後を託すのは、それからに!

掲載日2014.12.13